狐の恩返し(勝田の民話から)15/23

(市報かつた昭和61年11月10日号より。文・平野伸生 絵・穂垣智子)

1110
キツネは足に傷を負って、いかにもいたいたそうな表情で、じっと医者の顔をみつめていました

狐の恩返し

むかし、高野村にたいそう心のやさしい医者がいました。医者は村びとが病気で苦しんでいると、どんなに大雨が降っても、大風が吹いても、真夜中でも、出掛けて行って治療をしてあげました。

ある晩のことでした。隣の須和間村の若者が、村びとが病気で苦しんでいるのですぐにきてみてほしいと、息をきらしてかけこんできました。高野村と須和間村境は、田んぼや坂道があって昼間でもさびしい所でした。けれども、医者は苦にもせず薬箱を手にすると若者と一緒に出掛けて行きました。

病人はことのほか難病で、手当に時間がかかり、家路についたのは真夜中を過ぎていました。須和間の坂を下り、田んぼを過ぎて高野の坂道にさしかかったときでした。道端に一匹のキツネが、うずくまっていました。

「おめえは、しょっちゅう人を化がしてるキツネめだな、今夜はなんで人を化がさねえんだ」

医者はキツネに近寄ってみると、キツネは足に傷を負って、いかにもいたいたそうな表情で、じっと医者の顔をみつめていました。

「足ふん抜いたんだな、かねえそうに。これがらは決して人を化がすんだねえぞ」

医者は急いで薬箱から傷薬を取り出して手当てをしてあげました。キツネはたちまち元気を取り戻して、うれしそうに医者の方をふりかえりふりかえり、林の中へ帰って行きました。

それから一週間ほど過ぎた朝のことでした。医者が雨戸を開けてみると、軒下に紫色に熟れたアケビや山ブドウなどがたくさん置いてありました。

「これはうまそうなアケビだ、だれが持ってきてくれたんだっぺな」

ところが、つぎの日も、またつぎの日も置いてありました。不思議に思った医者は、その晩雨戸の隙間から、そっと外をのぞいておどろきました。傷の手当をしてあげたキツネが、恩返しに仲間のキツネとともにアケビや山ブドウを口々にくわえて運んできていたのでした。

広告